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グランドラインの只中に位置するにしては、
なかなかに長閑な空気の片田舎という小さな島。
元は海軍基地への補給地で、
これという冒険が出来るような曰くもエリアもない、
次の島へのログも1日足らずで溜まるぞという、
通過点扱いの群島の中の小島に過ぎず、
「おお、自分たちで帰って来たか、珍しい。」
以前のゴーイングメリー号以上に、
大きいわ特長もあり過ぎるわな外観で。
ここのような小さな規模の島では、融通も利かぬだろから尚更に、
正式な港へ着けるワケにもいかないサウザンドサニー号。
しょうがないからと、島の裏側の断崖へ寄り添わせ、
頭上になろう木立へロープを渡してそこから…という、
随分とこそりとした上陸を為していた麦ワラの一味であり。
食料に燃料、資材に消耗品に薬品などという必需品への補給にと、
それぞれへの目利きとして出掛けていた担当者たちとは別の組。
哨戒を兼ねての様子見だと、港に近い街の方へ向かった、
ナミとロビンという女性陣営は、
社交性もあって機転も利く身でもあるので、
こんな平和な土地柄だしと
女性ばかりの外出となっても特に案じられてはなかったけれど。
その代わりのように、こっちの二人は心配されていたらしく。
「夕方までに戻れなきゃ、俺が迎えに出るとこだったぞ?」
よく利く鼻が自慢のトナカイ船医さんが、
お兄さんぶった言い方をしたのも道理。
そちらさんらも特に御用があっての上陸じゃあなかった、
物見遊山組のルフィとゾロの“方向音痴”っぷりは筋金入りなため、
お迎えを出すのがもはや当たり前とされており。
「…手間ぁかけさせてすまねぇな。」
「いーってことよっ♪」
海側へ突き出した枝から甲板まで、
スルリと降りて来つつの、剣豪さんからのお声には。
大きなお世話だとか何だとか、八つ当たりっぽい含みもあったよな、
歯咬みしつつの威嚇的なお返事だったのに。
それへも気づかずの、
何だよ照れるじゃんかという、
微笑ましいお顔になってるチョッパーだったりする。
そんな絶妙な咬み合わなさも、彼らには相変わらずということか。(笑)
「あれれぇ? 俺らが最後じゃなかったのか?」
キッチンからだろいい匂いもするから、
甲板には姿こそ見えぬがサンジも戻っているようだし。
どんだけ買いだめしたやら、
中身はコーラだろう大きな樽を
どんどこと船倉へ運び込んでいるフランキーもいて、
ウソップがブルックに手渡しているのは、
お買い物として頼まれたらしいバイオリンの弦。
男性陣は全員顔を揃えているが、
ルフィらが最後なら『遅っそーい』とか何とかお声を掛けてくるはずの、
元気溌剌だった航海士さんらの気配がない。
「ログもすぐに溜まるから、
補給が済んだらすぐにも離れるとか何とか言ってなかったか?」
だから急いで戻って来たんだのによと。
珍しくも言い付けを守って穏当に帰れたもんだからか、
ナミめロビンめ、
そんな自分たちより遅刻とは なっとらん…くらいの、
大威張りな“上から目線”となってるルフィであるらしく。
“まあ、滅多にないことだし。”
“とはいえ、ここぞとばかりって感じで。”
子供だよなぁ…という感慨を
こそり胸のうちにて噛みしめたクチが幾たりか。(苦笑)
「あの二人が買い物にはしゃぎそうな種類のお店は、
あんまりなかったけどもなぁ。」
航海士と考古学者でもある二人とは、
本屋さんというのが目的の時だけ“お仲間”となるチョッパーながら。
女性ならではなお買い物、
洋服だの装飾品だの、化粧品だのデオドラント関係だののお店へは、
男の子だし鼻への刺激が強すぎるしで、
ご一緒出来なくなるのも已無しとなるのだが。
そっち方面のブティックとかコスメスタンドだとか、
この島の街では見かけなかったのにと、
不思議そうに ひょこりと小首を傾げてしまうものの、
「でもでも、
島じゅうが何かさわさわ楽しそうな気配ではあったけどなvv」
「あ、それはな♪」
まだ少々人見知りも出るせいか、話までは聞かなんだらしいトナカイさんへ、
それ知ってるぞ〜と、船長さんがにんまり笑い、
明後日の晩に祭りがあるんだと。
神聖な泉とやらへ歌姫ってのが歌を唄ってやったらな、
宝珠がきららんって光って見せるんで、
それを拾い上げて あっこの山の上にある岩戸の井戸ってのへ、
今年も嵐に見舞われぬよい年になりますようにって、
おごそかに ほーのーするんだと。
ほえぇ〜、それは凄いぞ唄で光るのか?
岩戸の井戸ってのは何だ?
宝珠ってのを乗っけると動く岩なのか?
凄げぇ〜〜〜vvと
故意にではなくのことながら、
大威張りな船長さんを煽るだけ煽るほど、
そちらさんもそれは素直に
興奮気味になってるトナカイさんはともかくも、
「…最後が平仮名なのは。」
「意味がよく判ってませんね、ルフィさん。」
「まあまあ、言ってやるな。」
ウソップ&大人二人が、
微笑ましいやりとりだなぁと見守っていたりして。
そんな面々の前を素通りし、
出港までは暇だと見切ったか、
芝草の広がる一角に据えられたベンチへ
昼寝のつもりか腰を下ろしかかった剣豪さんへは、
「よお、早ぇえお帰りだな。」
下ごしらえ終了か、甲板へ出て来た金髪のシェフ殿が、
戸口から出て来た出合い頭になったのへ、
律義にもお声をかけて来たものの、
「………手羽元の煮込みが焦げっちまうから、
今から熟睡モードにゃあ入んなよ?」
「うっせぇな。/////」
勿論のこと、父性や母性からじゃあなく、
せっかく一番の食べ頃を考えて作ってる食事、
上手に美味しく仕上がったその頂点で食わにゃあ許さんという、
凄腕シェフならではの自負から出たお言葉であり。
「あああ、ナミさんもロビンちゅあんも、
ベストの頃合いに戻って来てくんないかなぁんvv」
手と手を合わせてお顔の横へ。
妙齢のお嬢さんがやったらさぞかし可愛いだろう
そんなポーズを取って、しなを作ったものだから。
「……チョッパーに診てもらえ、こんの脳天気野郎。」
「なんだと、ごら。」
こっちはこっちで、口が減らない男衆二人、
いつものことながら、
今にも角を突き合わせそうになっていたりしたのだが。
「みんな〜、たっだいま〜〜♪」
こそりとした着岸&上陸のはずで、
ワクワクするなとはしゃいでたルフィへ
“てぇい静かに”と叱ったはずのみかん色の髪したお嬢さんが、
お〜い〜vvとやや浮かれての、
文字通り大手を頭上でぶんぶんと振って戻っておいで。
出先で新しい装いに着替えて来たらしく、
そろそろ初夏を迎えんというこの辺りの気候に合わせたそれ、
細い肩紐のタンクトップに七分丈のクロップパンツが、
健康的な印象のグラマーさんを引き立てれば。
その傍らに立つ年上のお姉様の方は方で、
黒髪に黒耀石の瞳のいや映える、
理知的な中にも謎めきをまといし蠱惑の美貌と、
こちら様も均整の取れた肢体を包むは、
濃色のテーラード・スーツ風ジャケットと、
ウルトラミニのアンサンブルのインナーに、
シフォン素材のフリフリブラウスとペチコートを合わせた、
ハード&フェミニンという小癪なテイストのいで立ちであり。
「いやはや、お二方とも瑞々しいvv」
「褒め方が爺臭いぞ、ブルック。」
「いやいや、こいつは十分爺さんではあるんだが。」
そんなコメントを交わす、大人二人&ウソップを
コメントごと後方から一またぎする勢いで、
だだだっと駆けてったのが、
言わずと知れた誰か様だったりするのももはやお約束。
「ナミすゎん、ロビンちゅあん、
お帰りなさいましぃ〜vv」
紳士的かつノーブルな執事というよりも、
今日は“留守番していた小動物”Ver.で、
駆け寄ってったシェフ殿へ、だが、
「あのね、すぐにでも出港するって言ったけど。
あれ、二日ほど延期にするわ、よろしく。」
それはあっけらかんという言いようにて、
清々しいまでの軽やかに、
さりとて“決定事項だから”という響きの
有無をも言わさぬトーンで言い放ったナミさんだったもんだから。
――― はい?×@
残りのクルー全員(船長含む)が
練習してあったかのように声を揃えて聞き返したのもまた、
無理のない話だったりし。
だってだって、さして面白い出ものも無さそうな小さな島だし、
海軍の常駐出張所がある出島が目と鼻の先。
ログもすぐさま溜まるそうだから、
これはとっとと離れるに限ると
他でもない彼女が今朝がた言ってたことなのにね。
そういう意味合いの反論交じりな、
おいおいおいおいという視線が集まってることは
重々承知なんだろに、
「だってぇ、美味しい話が転がり込んで来たっていうか、
これは乗んなきゃあってネタを見つけちゃったんですもの。」
この人がやってもさほど甘やかには聞こえない、
それでも精一杯にしなを含ませた声での弁明はといえば。
このところ、あんまり他の海賊との小競り合いもなくって
資金も底を尽きかけてたし。
かといって、
腕自慢だの唄自慢だのっていう
賞金つきの大会やカーニバルをやってる島にも
巡り合わせが悪いのか、今日びはなかなか行き会わせないし。
まあそっちは、ログを辿るしかない航海だから?
情報追っかけて自由奔放に捜し回れないのがネックだったんだけれども。
「この島で、明後日の晩にちょっとした神事があるらしいのよね。」
どれほどご機嫌か、
説明の途中から にぱーっと笑っておいでのナミの台詞へ、
「お?」 「え?」
約2名ほどが おややぁ?といつになく注意を引かれており。
「何でも、神聖な泉へ向かって歌を唄うと、
それが波長のいい歌姫の声でなら、
そこに沈んでる石のどれかがキラッて光るらしくてね。」
おやおや?
「それを今年の宝珠だとして引き揚げて、
山の中腹にある神殿の大岩に乗せるとあら不思議、
勝手に動いて井戸が開くから、
神様への祈祷をしながらそこへ捧げるのまでが一連の…。」
ちょーっと待ってくださいな。
「それって、」
呆気に取られ過ぎでうまく言葉が紡げないチョッパーが、
あのあのあのと、
そこにそのパンフレットでもあるかのように指差しちゃった態度を見て、
「あら。」
「チョッパーも島で話を聞いて来たの?」
歌姫候補は自由参加らしいんで、
あたしたちもノミネートして来ちゃったんだな、とはナミの言いよう。
そして、
「ロビンが言うには、
この島に出来やすい石英まじりの特殊な鉱石、
光り出すよに振動させる波長ってのは
音叉を使えばすぐにも解析出来ようから、
歌姫になれる高さのお声は練習すれば出せるようになるって。
それでね……?」
賞金も出るらしいんだけど、それよりも。
酒場でお抱え歌姫を大金積んで募集してたから…と
少々怪しいことを言い立て始めるナミなのへ、
おいおいおいおいと今度はゾロがくっきり眉を寄せ始めたその先で、
「俺、その儀式の3年連続歌姫さんと友達んなったぞ?」
っていう子だぞと、
ルフィがけろんと爆弾発言してくださったもんだから。
「なぁんですってぇ!!!」
「あらまあ、意外ねぇvv」
ロビンさんの方が、
ちいとも意外そうな顔じゃあないと思った人、手を挙げて。(笑)
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*案外とあっさり底が割れましたな。
つか、この二人と男性陣とが真っ向から対峙してたら、
アニメフェア1作分くらい
あれこれ起きそうでおっかなかったので。(それは言い過ぎ)

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